一般社団法人 孫子塾

孫子塾

コラム

11、孫子兵法独習用テキスト「孫子正解」シリーズ第一回出版のお知らせ

 弊塾ではこのたび、アマゾン書店より【孫子正解】シリーズ 第一回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版致しました。本書の目次は下記の通りです。とりわけ、ここでは第一章の、

2、管子・老子・孔子と孫子兵法との関係
3、なぜ孫子兵法は難解とされるのか、について若干のご紹介をさせて頂きます。

 第一章 本書の活用の仕方

  1、なぜ孫子兵法を学ぶのか
  2、管子・老子・孔子と孫子兵法との関係
  3、なぜ孫子兵法は難解とされるのか
  4、孫子の効果的な学び方(コツ)について
  5、孫子十三篇「素読のすすめ」とその方法
  6、孫子兵法と弁証法的思考との関係

 第二章 孫子兵法について

  1、「孫子兵法」伝承の歴史
  2、「竹簡孫子」兵法と幻の兵書「竹簡孫臏」兵法の出現
    ※別表一 「孫子兵法」略年表

 第三章 孫子兵法と脳力開発を併行して学ぶ意義

  1、孫子兵法を学ぶ意義
  2、脳力開発を学ぶ意義
  3、孫子兵法と脳力開発を併せて学ぶ意義
  4、「真のリーダーのための心得」十カ条

 第四章 脳力開発(狭義の脳力開発と情勢判断学を含む広義の意)の体系

 第五章 脳力開発(狭義)とは

 第六章 情勢判断学とは

 第七章 脳力開発(広義)のねらい

 第八章 兵法とは

 第九章 【資料】孫子十三篇「素読用テキスト」

Ⅰ、管子・老子・孔子と孫子兵法との関係

 孫子の成立をめぐっては、例えば、『太古七十戦を重ね初めて漢民族を統合した、という伝説のある黄帝の兵書に、孫武自身の経験に基づいた独創的兵策を加えたもの』などと謂われております。

 確かに孫子には、『凡そ、この四軍の利は、黄帝の四帝に勝ちし所以なり。』〈第九篇 行軍〉の言句がありますが、だからと言って、それをもって直ちに「黄帝の兵書」と結びつけるのはあまりにも、短絡的な見方と言わざるを得ません。

 とは言え、(黄帝の兵書かどうかは別として)普遍的な人間行動の原理という観点からすれば、おのずからそこには手本とすべき、もしくは、参考とすべき、言わば先導的兵書の存在がまず有り、それを深く学んで然(しか)る後に孫子が自身の実戦経験に基づいた兵策を加えたもの、と推測するのは蓋(けだ)し当然のことと言えます。

 因みに、孫子十三篇(六千余文字)の各篇中には、孫子が学び参考にしたと思われる「管子」の文章(但し、現存する七十六篇の内、とりわけその中枢となる経言・外言の牧民第一篇から兵法第十七篇までの意)が類似の語句として、もしくは共通した思想の流れとして、百六十条余り引用されており、両者における関係の深さとその親近性を示しております。

 言い換えれば、孫子十三篇の典拠(言葉や文章などの元になった拠り所の意)を数多く「管子」の中に見出すことができるということであり、その意味で言えば、いわゆる富国強兵策を論ずる「管子」の思想をとりわけ軍事面に特化したものが孫子兵法ということになります。今、試みにその例を挙げれば、次ぎのごとくであります…。

Ⅱ、なぜ孫子兵法は難解とされるのか

 古来、孫子兵法は「孫子の前に兵書なく、孫子の後に兵書なし」とまで評されるものゆえに、その解説書にいたっては今日まで『枚挙に遑(いとま)あらず』の観を呈しております。

 が、しかし、一般にその理解は、片言隻句(金言名句)の魅力に幻惑されて観念的・皮相的な解釈に止まり、孫子の広大にして深遠な思想的体系の全貌と、その本質に迫るものは少なかったのであります。則ち、その思想的体系とは無関係に片言隻句(金言名句)のみが愛用され、解釈というよりも孫子に託して己の主義主張を述べるのに急という内容が多かったということです。

 そのゆえに、孫子に関する一般的な理解は「孫子には何か大変素晴らしい智慧が書かれているようである。孫子を読めばそのことが分かる」にあるように思われます。が、そのような期待に反して、孫子には言わば「判じ物」的な抽象的理論は書かれていますが、直ちに役に立ちそうな、具体的なノウハウらしきものは殆んど書かれていません。その意味では、まさに拍子抜けであり、「大山鳴動して鼠一匹」の感が否めないところです。

 実は、孫子が高く評価される所以(ゆえん)は、「戦争という極めてマクロな人為的な事象」を簡潔に総括するその「判じ物」的な高度な抽象性にあり、抽象的理論なるがゆえにその応用性が時空を超えて発揮されるということであります。

 例えば、ある一定の情報が百枚の原稿用紙にまとめられているとしたら、それを一枚に精選し、さらにそれを十ヶ条に集約し、さらに三か条、一か条に要約し、最後にそのエキスを一枚の絵で表現するがごときものが、孫子の一言ということであります。その一言を聞いて万物の事情に通ずる道理を推理する理解力を問われるがゆえに孫子は難解とされるのです。

 言い換えれば、いわゆる抽象的思考力の高い人は、個々人の具体的かつ個別特殊的事象に孫子の抽象的理論を自在に同化させることができるのですが、事物を主観的・表面的・片面的にしか解釈できない人にとって、孫子はまさに判じ物であり、チンプンカンプン以外の何者でも無い、ということになるのです。孫子を学ぶのに脳力開発が必要とされる所以(ゆえん)です。

 皮肉的に言えば、このようなタイプの人に限って「その原因は孫子にあって自分に無い」と思い込み勝ちなものであります。まさに、ことの始めから「己を知らざる者」ゆえに、そもそも孫子が難解であるのも宜(むべ)なるかな、と言うことであります。

 古来、孫子が「大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く書物」と称されるゆえん所以であります。そのゆえに、孫子に関わる見解を聞けば、おのずからその人物の人間的器量の広狭大小が分かるという優れものでもあります。

 つまるところ、孫子兵法の価値は、六千余文字の文言それ自体に在るのではなく、それを応用する人間の頭脳の中に在るということです。付言すれば、その高度な抽象性のゆえに、孫子兵法なるものの具体的な実体はどこにも無い、ということでもあります。ここが本当に理解できるか否かをもって孫子入門の第一歩と解すべきで…。 

※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。

※併設 拓心観道場「古伝空手・琉球古武術」のご案内

 孫子を学ぶのになぜ古伝空手・琉球古武術なのか、と不思議に思われるかも知れません。だが、実は、極めて密接な関係にあります。例えば、彼のクラウゼヴィッツは、「マクロの現象たる戦争を、言わば個人の決闘的なミクロの戦いへ置き換えることのできる大局的観察能力・簡潔な思考方法こそが、用兵の核心をなすものである」と論じています。則ち、いわゆる剣術の大なるものが戦争であり、勝つための言わば道具たる剣術・戦争を用いる方法が兵法であるということです。

 とりわけ、スポーツの場合は、まずルールがあり、それをジャッジする審判がいます。つまり、スポーツの本質は、娯楽・見世物(ショー)ですから、おのずから力比べのための条件を同じくし、その上で勝負を争うという形になります。つまりは力比べが主であり、詭道はあくまでも従となります。そうしなければ娯楽・見世物にならず興行が成り立たないからです。

 これに対して、武術の場合は、ルールもなければ審判もいない、しかも二つとない自己の命を懸けての真剣勝負であり、ルールなき騙し合いというのがその本質であります。つまるところ、手段は選ばない、どんな手を使ってでも「勝つ」ことが第一義となります。おのずから相手と正面切っての力比べは禁じ手となり、必ず、まず詭道、則ち武略・計略・調略をもってすることが常道となります(まさにそのゆえに孫子が強調するがごとく情報収集が必須の課題となるのです)。

 つまり孫子を学ぶには武術を学ぶに如(し)くはなしであり、かつ古伝空手・琉球古武術は、そもそも孫子兵法に由来する中国武術を源流とするものゆえに、孫子や脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶには最適の方法なのです。

 古伝空手・琉球古武術は、日本で一般的な、いわゆる力比べ的なスポーツ空手とは似て非なる琉球古伝の真正の「武術」ゆえに誰でも年齢の如何(いかん)を問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものであります。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。
 
古伝空手・琉球古武術のすすめ

コラム一覧

2017年01月21日
28:日本人のルーツ『倭人はどこから来たのか』の出版のお知らせ
2016年01月02日
27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
2015年08月13日
26:孫子の曰う『拙速』と、いわゆる「拙速」の典型例たる「戦争法案」との関係
2015年06月16日
25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
2015年06月01日
24:【孫子 一問一答】シリーズ 第五回の「立ち読み」のご案内
2017年05月23日
※「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」通学ゼミ講座 受講生募集
2015年01月07日
22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内
2014年09月29日
21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
2014年07月23日
※著者からの「読者サービス」のお知らせ
2014年06月16日
19:電子書籍【孫子 一問一答】シリーズ第二回出版のお知らせ
2014年04月10日
18、根本的におかしいNHK・百分de名著「孫子」
2014年03月14日
17、孫子兵法の大前提となる「兵力比互角」の問題について
2014年01月17日
16、現行孫子と「竹簡孫子」の根本的な違いについて
2013年12月22日
15、〈第三篇 謀攻〉に曰う「兵力比互角の戦法」について
2013年12月12日
14、 孫子の曰う『善後策』と『拙速』の真意について
2013年10月30日
13、孫子の巻頭言と「五事」「七計」について
2013年08月06日
12、孫子の理論体系(全体構造)と体系図について
2013年04月18日
11、電子書籍【孫子正解】シリーズ第一回 出版のお知らせ
2012年12月27日
10、なぜ孫子兵法を学校で教えないのでしょうか
2012年05月05日
9、現代日本人はなぜ兵法的思考(戦略思考)が不得手なのか
2011年10月20日
8、老子と孫子の共通性について
2011年05月30日
7、孫子兵法と易経・老子・毛沢東・脳力開発との関係について
2011年05月24日
6、『敵を殺す者は怒りなり』の通説的解釈を斬る
2011年04月07日
5、 孫子の曰う『善後策』と、一般に謂う「善後策」とは似て非なるものである
2010年12月01日
4、危うきかな日本 ~尖閣ビデオ流出行為は非国民かヒーローか~
2010年08月26日
3、孫子の曰う『拙速』と、巷間いわれる「拙速」の根本的な違いについて
2010年05月22日
2、「孫子はなぜ活用できないのか」のご質問に答えて
2008年11月20日
1、孫子をなぜ学ぶ必要があるのか