25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
一、【孫子正解】シリーズについて
日本人が世界に冠たる優秀民族であることはもとより論を俟(ま)ちません。しかし、それはあくまでいわゆる手先の器用さ、あるいは技術的・技能的資質という側面において謂(い)われるものであり、逆に、日本人に最も欠落しているものは、対立闘争の原理に基づいての戦略的思考であり、分析的思考であり、弁証法的思考ということになります。
言い換えれば、日本人の民族的欠陥は、ことにおいて、何が正しく、何が間違っているかを原理的・本質的にキチンと考えようとしない点であります。そのゆえに、何かことが起きても、「誤魔化し」の別名たるいわゆる「和を以て貴しとなす」を得意とし、「まあまあ、なあなあ」式に問題を先送りするだけという体質が日本社会の普遍的現象となるのです。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とばかり、絶対に曖昧(あいまい)にしてはいけないものをなぜか曖昧(あいまい)にし、逆に、曖昧(あいまい)にしても良いものを神経質に白日のもとに曝(さら)け出さねば気が済まないという我が日本人の奇妙な悪癖が、つまるところ、かつての日中戦争・太平洋戦争の悲惨な結果をもたらし、近いところでは、彼の福島第一原発事故、あるいは集団的自衛権の閣議決定などという凡そ立憲・民主主義国家にあるまじきハチャメチャな事態を招来したのです。この本質的構造にメスが入らない限り、日本人自身による自浄努力など期待できないのが日本人社会の特徴なのです。
ともあれ、とりわけ情緒的にして感情に流され勝ちであり、物事を本質的に考えようとしない我が日本人が、対立闘争の原理に基づく戦略的思考の代表たる孫子を学ぶことは、否応なく日本人の民族的欠陥を直視せざるを得ないという効果を生むため、おのずから本来の長所は伸ばし、不適当な短所は是正するというまさに「鬼に金棒」的な人間形成・習慣づくりの方向に舵が切られることになります。グローバル化時代の今日、孫子を学ぶことは日本及び日本人にとってはまさに焦眉(しょうび)の急であると言わざるを得ません。
とは言え、極めて遺憾なことに、未だかつて、孫子十三篇の全体構造と理論体系(体系図)を明示し、かつ弁証法的思考の立場から孫子を論じ、結果的に孫子十三篇のどの切り口を取っても「原典孫子」の著者たる孫武自身をしてその文章を解説せしめるというテキストは見たことはありません。逆に言えば、今日の日本人に最も必要とされ、何はさておき第一に学ぶべき根本的思想たる孫子の学習環境が余りにも低レベルでお粗末、かつ極めて貧弱なものであるという証左であります。
そのような義憤に駆られて世に問うたものがこの【孫子正解】シリーズ・孫子兵法独習用テキストです。
二、【孫子正解】第十回 弱者の戦法「将の脳力開発」心術篇〈第八篇 九変〉
古来、本篇の篇首部分、則ち「孫子曰く、凡そ用兵の法」から「死地には則ち戦う」までは、大きな錯簡(さっかん:書物の文章、頁などが乱れていること)があるのではないかとの疑いが持たれ、様々な論議の的となって来ました。本書では、それらの主要な論点をとりあげて解説するとともに、竹簡孫子の観点から、その論拠の一つ一つに明快な反証を加え、古来、「群盲、象を評す」的な解釈に終始してきた篇首部分の体系的かつ整合性のとれた本来のあるべき意味合いを提示しております。
ともあれ、〈前篇 軍争〉と本篇は、弱者の戦法の実践篇と、言わば心術篇の関係にあり、前者が「軍争の難きは、迂を以て直と為し、患いを以て利と為すあり」を曰うものであるのに対し、後者は、その『迂直の計』の根本をなすところの『九変の術』、そのためのノウハウたる「将の脳力開発と情勢判断の方法」を論ずるものです。
言い換えれば、本篇は「将」の個人的資質を論ずる「将帥論」であり、「軍争の難き」を篇名に曰う『九変』の角度から説くものです。その意味においては「軍争の難きは、兵を治めて(作戦指揮に当たり)九変の術(臨機応変・状況即応の機略)を知ることにあり」とも言えます。そのゆえに、〈前篇 軍争〉の結言たる「此れ、変を治むる者なり」は、本篇を論ずるための伏線とも解されます。本書の概要は下記に示す通りです。
【孫子正解】第十回 弱者の戦法「将の脳力開発」心術篇〈第八篇 九変〉 目次
第一章 〈第八篇 九変〉読み下し文
第二章 〈第八篇 九変〉の構成分類
第三章 篇名に曰う「九変」の意味と本篇の趣旨
第四章 「軍争篇末錯簡説」について
第五章 臨機応変・状況即応の機略たる「九変の術」
第一節 地形と地形判断(その対処法・地の利)
第二節 状況判断
第三節 地形判断・状況判断・九変の術との相関関係
第六章 九変の術たる「将の脳力開発と情勢判断の方法」
第一節 脳力開発の三面 ①心の充実 ②思考力の向上 ③知識の拡大発展
第二節 対外戦略としての諸侯の操縦法
第三節 対内戦略としての不敗の態勢づくり
第四節 将の五危論(汝自身を知れ)
……続きは、【孫子正解】第十回でご覧いただければ幸甚です。
※お知らせ
孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。
※併設 拓心観道場「古伝空手・琉球古武術」のご案内
孫子を学ぶのになぜ古伝空手・琉球古武術なのか、と不思議に思われるかも知れません。だが、実は、極めて密接な関係にあります。例えば、彼のクラウゼヴィッツは、「マクロの現象たる戦争を、言わば個人の決闘的なミクロの戦いへ置き換えることのできる大局的観察能力・簡潔な思考方法こそが、用兵の核心をなすものである」と論じています。則ち、いわゆる剣術の大なるものが戦争であり、勝つための言わば道具たる剣術・戦争を用いる方法が兵法であるということです。
とりわけ、スポーツの場合は、まずルールがあり、それをジャッジする審判がいます。つまり、スポーツの本質は、娯楽・見世物(ショー)ですから、おのずから力比べのための条件を同じくし、その上で勝負を争うという形になります。つまりは力比べが主であり、詭道はあくまでも従となります。そうしなければ娯楽・見世物にならず興行が成り立たないからです。
これに対して、武術の場合は、ルールもなければ審判もいない、しかも二つとない自己の命を懸けての真剣勝負であり、ルールなき騙し合いというのがその本質であります。つまるところ、手段は選ばない、どんな手を使ってでも「勝つ」ことが第一義となります。おのずから相手と正面切っての力比べは禁じ手となり、必ず、まず詭道、則ち武略・計略・調略をもってすることが常道となります(まさにそのゆえに孫子が強調するがごとく情報収集が必須の課題となるのです)。
つまり孫子を学ぶには武術を学ぶに如(し)くはなしであり、かつ古伝空手・琉球古武術は、そもそも孫子兵法に由来する中国武術を源流とするものゆえに、孫子や脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶには最適の方法なのです。
古伝空手・琉球古武術は、日本で一般的な、いわゆる力比べ的なスポーツ空手とは似て非なる琉球古伝の真正の「武術」ゆえに誰でも年齢の如何(いかん)を問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものであります。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。
- 2017年01月21日
- 28:日本人のルーツ『倭人はどこから来たのか』の出版のお知らせ
- 2016年01月02日
- 27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
- 2015年08月13日
- 26:孫子の曰う『拙速』と、いわゆる「拙速」の典型例たる「戦争法案」との関係
- 2015年06月16日
- 25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
- 2015年06月01日
- 24:【孫子 一問一答】シリーズ 第五回の「立ち読み」のご案内
- 2017年05月23日
- ※「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」通学ゼミ講座 受講生募集
- 2015年01月07日
- 22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内
- 2014年09月29日
- 21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
- 2014年07月23日
- ※著者からの「読者サービス」のお知らせ
- 2014年06月16日
- 19:電子書籍【孫子 一問一答】シリーズ第二回出版のお知らせ
- 2014年04月10日
- 18、根本的におかしいNHK・百分de名著「孫子」
- 2014年03月14日
- 17、孫子兵法の大前提となる「兵力比互角」の問題について
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- 16、現行孫子と「竹簡孫子」の根本的な違いについて
- 2013年12月22日
- 15、〈第三篇 謀攻〉に曰う「兵力比互角の戦法」について
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- 14、 孫子の曰う『善後策』と『拙速』の真意について
- 2013年10月30日
- 13、孫子の巻頭言と「五事」「七計」について
- 2013年08月06日
- 12、孫子の理論体系(全体構造)と体系図について
- 2013年04月18日
- 11、電子書籍【孫子正解】シリーズ第一回 出版のお知らせ
- 2012年12月27日
- 10、なぜ孫子兵法を学校で教えないのでしょうか
- 2012年05月05日
- 9、現代日本人はなぜ兵法的思考(戦略思考)が不得手なのか
- 2011年10月20日
- 8、老子と孫子の共通性について
- 2011年05月30日
- 7、孫子兵法と易経・老子・毛沢東・脳力開発との関係について
- 2011年05月24日
- 6、『敵を殺す者は怒りなり』の通説的解釈を斬る
- 2011年04月07日
- 5、 孫子の曰う『善後策』と、一般に謂う「善後策」とは似て非なるものである
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- 4、危うきかな日本 ~尖閣ビデオ流出行為は非国民かヒーローか~
- 2010年08月26日
- 3、孫子の曰う『拙速』と、巷間いわれる「拙速」の根本的な違いについて
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