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コラム

22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内

一、【孫子 一問一答】シリーズについて

 古来、有名な孫子を学び活用しようとしても、結局、一知半解に終始し、心ならずも消化不良を来たしてしまうのは、誰しもが経験されたことではないでしょうか?
 たとえば「孫子は難解であり、何度読んでも疑念が生じてくる」「個々の金言名句には深く感銘を受けるものの、各篇とのつながりが不明確で、全体を通しての体系に一貫した理解が得られない」「軍事だけに止まらず、政治・経済・外交・思想・法令・教育など幅広く多岐に亘って包括する内容は、一体何を主張したいのか釈然としない」などであります。

 実は、そのような孫子に関わる様々なご質問がこれまでに、弊塾サイト『孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法』〈孫子塾の広場〉に三百件余り寄せられております。そのような個別具体的なご質問に対し、とりわけその趣旨に即しての明快な答えを提示し、かつ肩の凝らない読み物として整理しまとめたものが、第四弾としての【孫子 一問一答】シリーズ第四回です。

 この【孫子 一問一答】シリーズは、「孫子兵法独習用テキスト」として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わば入門篇的なものです。併せてお読み頂ければ幸甚です。

二、【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の目次について

◆「智」の章

一、孫子が一番重んじているのは『道』と謂(い)われておりますが。
二、地形篇と九地篇との違いについて教えてください。
三、孫子には具体的な手法がないため活用法が分かりません。

〇「信」の章

四、臨機応変・柔軟な思考はどのようにしたらできるでしょうか。
五、主動権を確保したか否かの判断基準を教えてください。
六、「正」と「奇」はどのようなものなのでしょうか。

■「仁」の章

七、現在の日本に優秀なリーダーは望めるのでしょうか。
八、「過度の一般化」をしてしまう人が結構多い。なぜこのような人が増えたのでしょうか。
九、「道・天・地・将・法」における「法」とは何のことなのでしょうか。

◇「勇」の章

十、「五事」とはどのようなことを分析・検討するのでしょうか。
十一、軍令や軍政とか出てきますがその意味を教えてください。
十二、脳力開発でいう「人頼りの姿勢」の具体例を教えてください。

●「厳」の章

十三、彼我戦力はどこまで把握したらよいのか分かりません。
十四、日本の政治家にはノーブレス・オブリージュ(貴き責務)の精神があるのでしょうか。
十五、いわゆる結果を残した人を将・リーダーと見て良いでしょうか。

三、立ち読み

 ここでは「智」の章・【ご質問】一、「孫子が一番重んじているのは『道』と謂(い)われておりますが」についてその内容をご紹介します。

〈ご質問の内容〉

 頼山陽は、『孫子が一番重んじるのは「道」である』と言っています。また史記や他の三略や司馬法でもそのような意味合いが強いと思います。私もそうなのではないかと思っているのですが実際どうなのでしょうか?

〈回答〉

 そもそも「兵書」孫子は、中国・春秋時代(前770~403)の紀元前六世紀末ごろ、孫武によって著(あらわ)されたものと伝えられております。時代区分的には、その次に戦国時代(前403~221)の到来となるわけですが、この辺りの時代的な特性は本質的にはそれほど変わらないと言えます。

 つまり、この頃、中国の支配者たる周王朝の王権は衰退してしまい、周王は名目上、中国の天子ではありましたが、もはや天下に号令しこれを統制する力は失われ、わずかに、その都(みやこ)たる河南省の洛陽地方を支配するだけの国王に過ぎなかったのです。

 そのような時代的背景を踏まえ、名目上は周王に封ぜられた諸侯は、実質的にはその支配に服さず、まさに日本の戦国時代のごとく、各地に独立国として群雄割拠し、それぞれ国家組織の統制や軍事訓練、兵器や軍資金などを調達するための経済力の開発など、いわゆる富国強兵策に奔走して近隣諸侯との対立抗争に備え、かつ互いに対外侵略を繰り返すなど優勝劣敗・弱肉強食の興亡を展開しておりました。

 つまり、「兵書」孫子の著(あらわ)された時代は、まさに戦国乱世であり、おのずからその国家目的も群雄割拠の厳しい生存競争の中でいかに勝ち残るか、いかに自国の生存と繁栄を勝ち取るかにあったことは論を俟(ま)ちません。

 彼の有名な巻頭言『孫子曰く、兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。』〈第一篇 計〉はまさにそのことを雄弁に物語っております。この意と趣旨を同じくする言句は孫子十三篇を通じて散見され首尾一貫しております。今、試みに挙げれば次のようになります。

①『夫れ、兵久しくして国の利なる者は、未だ之れ有らざるなり。』『故に、兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に、兵を知るの将は、民の司命、国家安危の主なり。』〈第二篇 作戦〉

②『孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』〈第三篇 謀攻〉

③『亡国は以て復(ま)た存す可からず、死者は以て復(ま)た生く可からず。故に明主は之を慎み、良将は之を警(いまし)む。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。』〈第十二篇 火攻〉・後半部

 右の代表たる巻頭言を受けて、然(しか)らば、敵に負けないように自国が平素から軍備を成すための必要不可欠な条件は何か、ということです。言い換えれば、最も悲惨にして激烈、かつ極めてマクロな人為的現象たる戦争を論ずるには、まずこれ以上は外しようがないという言わば、大網を掛けてその全体像を把握する必要があります。

 その大網に相当するものが易経の説(せつ)卦伝(かでん)に曰う三才(万物の意)、則ち「天・地・人」であり、これに当てはめて論ずるものが五事たる『道・天・地・将・法』ということになります。つまり、「孫子が一番重んじていたものは何でしょうか」のご質問に答えれば、それは「自国の生存と繁栄」であり、その側面たる「対多敵配慮」であると言うことになります。

 そのことを踏まえて、次に重要なのが五事であり、その中で重要なものが『道』という順序になります。

 このことは、何事によらず物事には、「本末(ほんまつ)」、則ち、根幹と枝葉があり、この両者を明確に弁(わきま)えることが事を成すための重要課題であることを示唆するものです。言い換えれば、まず正鵠(的(まと))を射た理念があり、次に、それに基づく戦略があり、最後に、それを首尾一貫して遂行する指導力があるという順序であります。つまるところ、いわゆる方法より根本態度が重要であるとも言えます。毛沢東はこれについて次のように論じております。

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 将兵関係、軍民関係がうまく行かないのはやり方がまちがっているからだと考えている人が非常に多い。わたくしは、ぜひ、かれらに言いたい。それは根本態度(あるいは根本目的)の問題だ、と。そして、その態度とは兵士を尊重し人民を尊重することである。この態度が出発点となって、いろいろの政策・方法・方策が生まれるのである。この態度をはなれれば、政策・方法・方策もかならずまちがってくるし、将兵のあいだ、軍民のあいだの関係もきっとうまく行かないだろう。

 軍隊の政治活動の三大原則は、第一が将兵のあいだの一致であり、第二が軍民のあいだの一致であり、第三が敵軍を瓦解(がかい)させることである。これらの原則が有効に実行されるには、兵士の尊重、人民の尊重、すでに武器を放棄した敵軍の俘慮(ふりょ)の人格の尊重という、この根本態度から出発しなければならない。

 これらのことを根本態度の問題とは認めず、技術の問題と考える人々は、実際は考えちがいをしているのであり、これを改めなければならない。
    (引用文献『毛沢東選集』第三巻・持久戦について 1938・5 三一書房)
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 ともあれ、人間はとかく現象面・表面的なことがらに注意が行き勝ちであります。しかし、事物には必ず構造面がありますから、やはり、ことの本末(ほんまつ)、則ち、根幹と枝葉の関係をキチンと弁(わきま)えることが肝要であります。

 その意味で毛沢東の論じている事柄は、まさに根本的・本質面からの見方であります。言い換えれば、確かに『道』は五事の中では、根本であり、本質であります。が、しかし、全体的に見れば、それはあくまでも、まず最重要の課題たる巻頭言を受けて、次に戦争を考察するための必要不可欠の条件たる五事があり、その次に、五事の中でとりわけ重要なものが『道』である、という順序になります。

 孫子を学ぶということは、孫子十三篇を首尾一貫して流れている、まさにそのような思想・考え方を学ぶということであり、決して断章取義的に金言名句の意味を断片的に解釈することではありません。そのゆえに、皮肉を込めて言えば、「孫子が一番重んじているのは『道』と謂(い)われておりますが」のご質問は、まさに現象面的な捉え方そのものであり、表面的・一面的・断片的な見方であると言わざるを得ません。

……続きは、【孫子 一問一答】シリーズ 第四回でご覧いただければ幸甚です。

※この【孫子 一問一答】シリーズは、『孫子兵法独習用テキスト』として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わばその入門篇的なものであります。

【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)も併せてお読み頂ければ幸甚です。

※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。

※併設 拓心観道場「古伝空手・琉球古武術」のご案内

 孫子を学ぶのになぜ古伝空手・琉球古武術なのか、と不思議に思われるかも知れません。だが、実は、極めて密接な関係にあります。例えば、彼のクラウゼヴィッツは、「マクロの現象たる戦争を、言わば個人の決闘的なミクロの戦いへ置き換えることのできる大局的観察能力・簡潔な思考方法こそが、用兵の核心をなすものである」と論じています。則ち、いわゆる剣術の大なるものが戦争であり、勝つための言わば道具たる剣術・戦争を用いる方法が兵法であるということです。

 とりわけ、スポーツの場合は、まずルールがあり、それをジャッジする審判がいます。つまり、スポーツの本質は、娯楽・見世物(ショー)ですから、おのずから力比べのための条件を同じくし、その上で勝負を争うという形になります。つまりは力比べが主であり、詭道はあくまでも従となります。そうしなければ娯楽・見世物にならず興行が成り立たないからです。

 これに対して、武術の場合は、ルールもなければ審判もいない、しかも二つとない自己の命を懸けての真剣勝負であり、ルールなき騙し合いというのがその本質であります。つまるところ、手段は選ばない、どんな手を使ってでも「勝つ」ことが第一義となります。おのずから相手と正面切っての力比べは禁じ手となり、必ず、まず詭道、則ち武略・計略・調略をもってすることが常道となります(まさにそのゆえに孫子が強調するがごとく情報収集が必須の課題となるのです)。

 つまり孫子を学ぶには武術を学ぶに如(し)くはなしであり、かつ古伝空手・琉球古武術は、そもそも孫子兵法に由来する中国武術を源流とするものゆえに、孫子や脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶには最適の方法なのです。

 古伝空手・琉球古武術は、日本で一般的な、いわゆる力比べ的なスポーツ空手とは似て非なる琉球古伝の真正の「武術」ゆえに誰でも年齢の如何(いかん)を問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものであります。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

コラム一覧

2017年01月21日
28:日本人のルーツ『倭人はどこから来たのか』の出版のお知らせ
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27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
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25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
2015年06月01日
24:【孫子 一問一答】シリーズ 第五回の「立ち読み」のご案内
2017年05月23日
※「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」通学ゼミ講座 受講生募集
2015年01月07日
22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内
2014年09月29日
21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
2014年07月23日
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19:電子書籍【孫子 一問一答】シリーズ第二回出版のお知らせ
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18、根本的におかしいNHK・百分de名著「孫子」
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