21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
一、【孫子 一問一答】シリーズについて
古来、有名な孫子を学び活用しようとしても、結局、一知半解に終始し、心ならずも消化不良を来たしてしまうのは、誰しもが経験されたことではないでしょうか?
たとえば「孫子は難解であり、何度読んでも疑念が生じてくる」「個々の金言名句には深く感銘を受けるものの、各篇とのつながりが不明確で、全体を通しての体系に一貫した理解が得られない」「軍事だけに止まらず、政治・経済・外交・思想・法令・教育など幅広く多岐に亘って包括する内容は、一体何を主張したいのか釈然としない」などであります。
実は、そのような孫子に関わる様々なご質問がこれまでに、弊塾サイト『孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法』〈孫子塾の広場〉に三百件余り寄せられております。そのような個別具体的なご質問に対し、とりわけその趣旨に即しての明快な答えを提示し、かつ肩の凝らない読み物として整理しまとめたものが、第三弾としての【孫子 一問一答】シリーズ第三回です。
この【孫子 一問一答】シリーズは、「孫子兵法独習用テキスト」として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わば入門篇的なものです。併せてお読み頂ければ幸甚です。
二、【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の目次について
◆「順逆」の章
1、孫子兵法の「弱点」についてお尋ねいたします。
2、状況変革が孫子の神髄と聞きますが、それを代表する孫子の言を教えてください。
3、孫子の勉強会などは行われていないのでしょうか。
4、ライバル店に押され店が赤字の場合、どうすべきでしょうか。
○「制権」の章
5、今年も起きた川遊びの水難事故と、自己責任についてお尋ねします。
6、孫子の中で「ここが一番大事だ」という文章はどこでしょうか。
7、いわゆる「交渉術」についてどう考えたら良いのでしょうか。
8、孫子のいう短期決戦と迂直の計とは矛盾すると思いますが。
■「詭道」の章
9、現代の日本において、孫子の曰う「死地作戦」は実際に使えるのでしょうか。
10、戦力には数値化できないものがあるため、彼我の戦力は把握できないと思いますが。
11、いわゆる「善後策」は孫子が出典だと思いますが、その正しい意味を教えてください。
12、虚実篇にある「手段を用いて奔命に疲れさす」の意味を教えてください。
◇「兵家」の章
13、孫子の曰う『善後策』〈第二篇 作戦〉の普遍的原理について教えてください。
14、「人はパンのみにて生くるものにあらず」の言と『善後策』は関係するのでしょうか。
15、「心身を鍛える=スポーツ」という思想はどことなくオカシイと思うのですが。
16、「勢い」に乗せるにはどのような方法があるのでしょうか。
●「廟算」の章
17、卒研での孫子研究についてアドバイスをお願いします。
18、いわゆる「国民主権」の趣旨と孫子を学ぶ意義との関係を教えてください。
19、「彼を知り己を知れば」を判断するその目安が分かりません。
20、「人間の脳は死ぬまで完成しない」の意味と、『善後策』の関係を教えてください。
三、立ち読み
ここでは「詭道」の章・【質問】11:「いわゆる『善後策』は孫子が出典だと思いますが、その正しい意味を教えてください」についてその内容をご紹介いたします。
〈ご質問の内容〉
いわゆる「善後策」の熟語は、一般的に良く使われておりますが、その意味を辞書で引くと「事が起きてからの後始末の方策」とあり、何か腑(ふ)に落ちず納得できないものを感じます。
『善後策』は孫子が出典であると理解しておりますが、いやしくも「兵書」たるものが、まさに事後処理的な意味合いに過ぎないようなことをわざわざ貴重な紙面を割き重要事項として解説し、後世に残そうとするだろうかという素朴な疑問です。
(国民の)死生の地、(国家の)存亡の道を論ずる孫子の言葉ならキチンとした意味があるはずだと思います。兵書孫子に曰う『善後策』の正しい意味を教えてください。
〈回答〉
非常に良いご質問ですので真摯にお答え致します。辞書では、通常、いわゆる「善後策」の意味は、次のように説明されています。
①事件などのあとをうまくおさめるための方策。あと始末の手段。
②後始末をうまくつけるための方法。善後策を講じる。
③起こった物事の後々がよいように立てた方策、手段。
④事後の改善を期する後始末の方策・手段。
則ち、一般に謂(い)われているところの「善後策」とは、つまるところ、「事が起きてからの後始末あるいは事後処理を巧みに行うこと」の意に解されています。なるほど、そのゆえなのか、確かに日本社会、とりわけ政・官・業・学界においては、まさに「事が起きてから対策を講ずる」という図式が顕著に見受けられます。例の福島第一原発事故の顛末(てんまつ)などはまさにその典型例と言わざるを得ません。
が、しかし、もしそのような思想が日本の常識であるならば、明らかにそれは間違いであり、言わば、日本人の民族的欠陥の一つと断ぜざるを得ません。
ところで、このことに関して孫子は、『夫(そ)れ、兵を鈍らし鋭を挫(くじ)き、力を尽くし貨をつくせば、則ち諸侯、その弊に乗じて起こり、智者有りと雖(いえど)も、その後を善くする能(あた)わず。』〈第二篇 作戦〉と論じております。
一般にこの意味は、「もし軍も疲弊し鋭気も挫(くじ)かれて、やがて力も尽き財貨も尽きたということになれば、周辺の諸侯たちはその困窮につけこんで襲いかかり、たとえ味方に智謀の人がいても、とてもそれを防いで巧(うま)く後始末をすることはできない」と解されています。
このことから、いわゆる「善後策」とは、右記の原文たる『不能善其後矣(其の後を善くする能わず)』の「善」と「後」から生まれた熟語とも解されますが、ともあれ、今日、いわゆる善後策は、(孫子の本意はさておき)事が起きてからの後始末、もしくは事後処理を巧みに行うことの意に解されているのです。
逆に言えば、いわゆる弁証法的思考たる孫子の言は、当然のことながら、その反面を読むことが肝要なのであって、ただ主観的、片面的、表面的に文意を解釈するだけでは、『善後策』〈第二篇 作戦〉に関する孫子の本意には迫れないと言うことです。
然(しか)らば、孫子の曰う『善後策』とはいかに解すべきか、ということですが、結論的に言えば、「兵法とは、『行き詰まらないこと』を以てその一大事とする」ということです。
つまり、「いかに勝つか」を目的とし、『死生の地、存亡の道』〈第一篇 計〉を論ずる兵法の立場からすれば、そもそも「事が起きてから、さてどうするか」では余りにお粗末過ぎて話にも絵にもならないということです。もとより、このようなことは普通の人が普通の頭で普通に考えれば誰でも分かることであり、ことさら言う方が恥ずかしいくらいです。
『夫(そ)れ、兵を鈍らし鋭を挫き、力を尽くし貨をつくせば、則ち諸侯、その弊に乗じて起こり、智者有りと雖(いえど)も、その後を善くする能(あた)わず。』〈第二篇 作戦〉を普通の頭で普通に読めば、孫子の真に言いたいことは上記文意の逆説である「そうなる前に、そうならないように手を打て、それが『智者・リーダー』たる者の資質であり、責務である」の意に解されるはずです。
孫子の場合は、たまたまその結論が「ゆえに『拙速』たるべし」となるだけの話であって、その『善後策』の普遍性という観点から言えば、もとより『拙速』にこだわる必要は全く無いのであります。
斯(か)く解することにより、孫子は二千五百年の時と空間を超えて我々の善(よ)き参謀として、その傍(かたわ)らに座(すわ)るのです。いくら時代が変化し、社会や制度の仕組みが革(あらた)まり、科学技術が進歩発展しても、その中核的存在たる人間の心身や本質は殆ど変わらないということです。吾人が孫子を学ぶ所以(ゆえん)です。
ともあれ、兵法とは、「転ばぬ先の杖」であり、「行き詰まらないこと」をもってその一大事とするものです。ゆえに『そうなる前に、そうならないように手を打つ』ことは、理の当然であり、言わずもがなのことであります。
然(しか)るに、例の福島第一原発事故のごとく、事が起きてから右往左往するような体(てい)たらくでは、その任に係わる当事者・責任者たるものは、そもそも『智者・リーダー』としての資質に欠け、その責務の何たるかが全く分かっていない輩(やから)、と言わざるを得ません。
そうであるにも関わらず、一般に、いわゆる「善後策」は、「事が起きてから、さてどうするか」という、言わば「事後策」の意に解されているのです。まさに現代日本人は、孫子の片言隻句を恣意(しい)的に引用し正当化していると言わざるを得ず、その意味では『生兵法は大怪我(おおけが)の基(もと)』の謗(そし)りを免れません。
なぜそのような児戯にも類する能天気な発想になるのか、実に理解に苦しむところです。もとよりそこには、日本人の民族的欠陥たる感情的・表面的・一面的思考、責任回避の事なかれ主義、「長い物には巻かれろ」式の受動的な精神的姿勢などの影響もあるのでしょう。が、何と言っても、その主たる原因は、孫子の片言隻句が断章取義的に理解されて勝手に一人歩きし、『本当は良く分かっていないのに、分かった積りになっている、もしくは、分かった振りをしている』ことにあると言わざるを得ません。
世の中には、右のような言わば一知半解(いっちはんかい)・傲慢(ごうまん)不遜(ふそん)な態度の人が、残念ながら、少なからず散見されるということです。もとより、「一を聞いて十を知る」のは人間的知性のあるべき姿であります。が、しかし、「一を聞いて十を知る」のではなく、「一を聞いて十を知った積りになる」のは、まさに「己を知らざる者」の典型であり、孫子の最も嫌うところです。
孫子が『彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず。』〈第三篇 謀攻〉を論ずる所以(ゆえん)であります。
……続きは、【孫子 一問一答】シリーズ第三回でご覧いただければ幸甚です。
※この【孫子 一問一答】シリーズは、『孫子兵法独習用テキスト』として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わばその入門篇的なものであります。
【孫子正解】シリーズ(第一回~八回まで既刊)も併せてお読み頂ければ幸甚です。
※お知らせ
孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。
※併設 拓心観道場「古伝空手・琉球古武術」のご案内
孫子を学ぶのになぜ古伝空手・琉球古武術なのか、と不思議に思われるかも知れません。だが、実は、極めて密接な関係にあります。例えば、彼のクラウゼヴィッツは、「マクロの現象たる戦争を、言わば個人の決闘的なミクロの戦いへ置き換えることのできる大局的観察能力・簡潔な思考方法こそが、用兵の核心をなすものである」と論じています。則ち、いわゆる剣術の大なるものが戦争であり、勝つための言わば道具たる剣術・戦争を用いる方法が兵法であるということです。
とりわけ、スポーツの場合は、まずルールがあり、それをジャッジする審判がいます。つまり、スポーツの本質は、娯楽・見世物(ショー)ですから、おのずから力比べのための条件を同じくし、その上で勝負を争うという形になります。つまりは力比べが主であり、詭道はあくまでも従となります。そうしなければ娯楽・見世物にならず興行が成り立たないからです。
これに対して、武術の場合は、ルールもなければ審判もいない、しかも二つとない自己の命を懸けての真剣勝負であり、ルールなき騙し合いというのがその本質であります。つまるところ、手段は選ばない、どんな手を使ってでも「勝つ」ことが第一義となります。おのずから相手と正面切っての力比べは禁じ手となり、必ず、まず詭道、則ち武略・計略・調略をもってすることが常道となります(まさにそのゆえに孫子が強調するがごとく情報収集が必須の課題となるのです)。
つまり孫子を学ぶには武術を学ぶに如(し)くはなしであり、かつ古伝空手・琉球古武術は、そもそも孫子兵法に由来する中国武術を源流とするものゆえに、孫子や脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶには最適の方法なのです。
古伝空手・琉球古武術は、日本で一般的な、いわゆる力比べ的なスポーツ空手とは似て非なる琉球古伝の真正の「武術」ゆえに誰でも年齢の如何(いかん)を問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものであります。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。
- 2017年01月21日
- 28:日本人のルーツ『倭人はどこから来たのか』の出版のお知らせ
- 2016年01月02日
- 27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
- 2015年08月13日
- 26:孫子の曰う『拙速』と、いわゆる「拙速」の典型例たる「戦争法案」との関係
- 2015年06月16日
- 25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
- 2015年06月01日
- 24:【孫子 一問一答】シリーズ 第五回の「立ち読み」のご案内
- 2017年05月23日
- ※「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」通学ゼミ講座 受講生募集
- 2015年01月07日
- 22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内
- 2014年09月29日
- 21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
- 2014年07月23日
- ※著者からの「読者サービス」のお知らせ
- 2014年06月16日
- 19:電子書籍【孫子 一問一答】シリーズ第二回出版のお知らせ
- 2014年04月10日
- 18、根本的におかしいNHK・百分de名著「孫子」
- 2014年03月14日
- 17、孫子兵法の大前提となる「兵力比互角」の問題について
- 2014年01月17日
- 16、現行孫子と「竹簡孫子」の根本的な違いについて
- 2013年12月22日
- 15、〈第三篇 謀攻〉に曰う「兵力比互角の戦法」について
- 2013年12月12日
- 14、 孫子の曰う『善後策』と『拙速』の真意について
- 2013年10月30日
- 13、孫子の巻頭言と「五事」「七計」について
- 2013年08月06日
- 12、孫子の理論体系(全体構造)と体系図について
- 2013年04月18日
- 11、電子書籍【孫子正解】シリーズ第一回 出版のお知らせ
- 2012年12月27日
- 10、なぜ孫子兵法を学校で教えないのでしょうか
- 2012年05月05日
- 9、現代日本人はなぜ兵法的思考(戦略思考)が不得手なのか
- 2011年10月20日
- 8、老子と孫子の共通性について
- 2011年05月30日
- 7、孫子兵法と易経・老子・毛沢東・脳力開発との関係について
- 2011年05月24日
- 6、『敵を殺す者は怒りなり』の通説的解釈を斬る
- 2011年04月07日
- 5、 孫子の曰う『善後策』と、一般に謂う「善後策」とは似て非なるものである
- 2010年12月01日
- 4、危うきかな日本 ~尖閣ビデオ流出行為は非国民かヒーローか~
- 2010年08月26日
- 3、孫子の曰う『拙速』と、巷間いわれる「拙速」の根本的な違いについて
- 2010年05月22日
- 2、「孫子はなぜ活用できないのか」のご質問に答えて
- 2008年11月20日
- 1、孫子をなぜ学ぶ必要があるのか