27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
一、【孫子 一問一答】シリーズについて
古来、有名な孫子を学び活用しようとしても、結局、一知半解に終始し、心ならずも消化不良を来たしてしまうのは、誰しもが経験されたことではないでしょうか?
たとえば「孫子は難解であり、何度読んでも疑念が生じてくる」「個々の金言名句には深く感銘を受けるものの、各篇とのつながりが不明確で、全体を通しての体系に一貫した理解が得られない」「軍事だけに止まらず、政治・経済・外交・思想・法令・教育など幅広く多岐に亘って包括する内容は、一体何を主張したいのか釈然としない」などであります。
実は、そのような孫子に関わる様々なご質問がこれまでに、弊塾サイト『孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法』〈孫子塾の広場〉に三百件余り寄せられております。そのような個別具体的なご質問に対し、とりわけその趣旨に即しての明快な答えを提示し、かつ肩の凝らない読み物として整理しまとめたものが、第6弾としての【孫子 一問一答】シリーズ第六回です。
この【孫子 一問一答】シリーズは、「孫子兵法独習用テキスト」として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~十回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わば入門篇的なものです。併せてお読み頂ければ幸甚です。
二、【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の目次について
〈作戦〉の章
(1)自衛隊は明らかに違憲であるが、護憲派から違憲という批判が出ないのは納得できない。
(2)幕末の兵学者・吉田松陰の生き様、死に様と孫子との関係について教えてください。
(3)孫子の曰う詭道(戦いは騙し合い)の考え方は日常生活では使えませんが。
〈用兵〉の章
(4)いわゆる実学重視か、徳育(道徳学)重視かの問題はどう考えたら良いのでしょうか。
(5)政治家のいわゆる猿芝居的「土下座」行為と、将の五危・『愛民』との関係について。
(6)正鵠を「射る」か、正鵠を「得る」か、どちらの使い方が正解なのでしょうか。
〈善後〉の章
(7)孫子を真に理解するにはどこをどう直せばよいのでしょうか。
(8)孫子を使って「うつ病」と戦うことはできるでしょうか。
(9)孫子の曰う組織編成とはどういうことでしょうか。
〈拙速〉の章
(10)先生の塾以外で、孫子を勉強する塾や講座などがあれば教えてください。
(11)一般に、よく孫子は最強だと聞きます。本当でしょうか。
(12)かつてのサムライがいわゆる文武両道に励んだ理由を教えてください。
〈貴勝〉の章
(13)変化相撲により執念の「横綱初優勝」を果たした横綱鶴竜への賛否両論について。
(14)ものごとの判断に際し、何をどこまでどのように考えたら良いでしょうか。
(15)孫子の曰う『拙速』と一般に使われる意の「拙速」の典型例たる「戦争法案」との関係
三、立ち読み
ここでは〈作戦〉の章:(1)「自衛隊は明らかに違憲であるが、護憲派から違憲という批判が出ないのは納得できない」についてご紹介します。
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〈ご質問の内容〉
平成27年10月4日付、朝日新聞・読者投稿の「声」欄に、十八歳の高校生から次のような記事が寄せられました。
『安全保障関連法の議論は空虚だ。右も左もめちゃくちゃ。一段上から傍観する態度は嫌いだが、今回ばかりはそういう態度をとらざるを得ない。明らかに憲法違反なのに合憲と言い張る政権の横暴は数々批判されている。だから、立憲主義を盾に安保法に反対する人たちへ批判を書きたい。
憲法九条を素直に読めば自衛隊の存在は違憲だ。それなのに、護憲派から違憲だという批判が聞かれない。立憲主義を貫き通すならば、整合性が取れる立場は九条改憲論者か自衛隊解散論者だけだ。
僕の立場は前者である。違憲立法などせず、自衛隊を軍隊として位置づける憲法改正をすべきだと思っている。対して、安保法に反対するデモ参加者は大半が護憲派だ。違憲だけれども、自衛隊は現状のままでよいという人が大多数ではないか。そうなら、立憲主義を語る資格などない。「改憲派だけれども安保法には反対」と考えている僕は、来年の参院選で誰に投票すればいいのだろうか』と。
もとより賛否両論がありましたが私は投稿された方に全く同感です。私も憲法九条と自衛隊の整合性に疑問を抱いています。自衛隊は名実ともに世界屈指の「軍隊」だからです。九条第二項の戦力不保持の理念は、必ずしも現実と合致していません。孫子兵法の観点からいかに解するべきかを教えてください。
〈回答〉
新聞報道によれば、安倍首相は自身が会長を務める保守系の会合(2015/11/28)に出席し、「自民党は立党六十年を迎える。憲法改正をはじめ、占領時代に作られた様々な仕組みを変えて行こうという立党の原点を呼び起こさなければならない」とあいさつし、憲法改正の推進に意欲を見せ、そのためにも来年の参院選での勝利を呼びかけたとあります。
つまり、安倍首相は憲法改正(ここではとりわけ憲法九条の意)に固執する一番の理由として、「アメリカの占領軍によって作られたものであり、日本人みずからの手になるものではないから」と主張しておりますが、普通の頭で普通に考えればこれは完全に彼の独善的思考であり、妄想、思い込みの類(たぐい)と言わざるを得ません。
その成立に日本側の関与があったとは言え、基本的に主導権を発揮し主体的にことを進めたのは確かにアメリカの占領軍であったことは論を俟(ま)ちません。その意味では安倍首相の言う通りでありますが、問題は九条の背景にある当時の日本人の心情をいかに解するかということです。
則ち、さきの日中・太平洋戦争において実に310余万の日本人が死亡し、大空襲で日本の主要都市は悉(ことごと)く灰燼(かいじん)に帰し、極めつきに原爆を二つも落とされなど前代未聞の壊滅的な敗戦を体験した当時の日本人の心情はいかばかりであったかということです。
端的に言えば、「もう戦争はこりごりだ。あんな馬鹿げたことは二度とやりたくない」、「平和は実に有り難い。何よりも、日々、命を失う心配をしなくて済むことが最高に嬉しい」というのが偽らざる真情であったと解されます。言い換えれば、日本国憲法の成立過程がどのようなものであったにせよ、そこに掲げられていた「戦争放棄」の文言は、当時のほとんどの日本人の心情、切なる願い、希望を体現するものであったことはもとより論を俟ちません。
その意味で安倍首相の言う「現行日本国憲法は、アメリカの占領軍によって作られたものであり、日本人みずからの手になるものではないからダメだ。改正すべし」の論は、実(まこと)に不見識・不適当であると言わざるを得ません。ここはまずしっかり押さえておくべきところであります。
一方、1950年代、朝鮮戦争が勃発し、戦争を放棄したはずの日本に警察予備隊が生まれ、かつ戦犯の釈放運動が盛り上がりを見せる一方、公職追放が解除された元職業軍人らが警察予備隊に続々と入隊するなど「いつか来た道」的な逆コースの動きが露骨になって来ました。この警察予備隊が保安隊を経て1954年に自衛隊となり、その後も増強は続き、今日では名実ともに、世界屈指の「軍隊」となったわけです。
言い換えれば、このような一連の流れをどう解するかということです。ここのところが明快になれば、おのずから『自衛隊が明白に違憲である以上、九条を改正するか、あるいは自衛隊解散するかの二つに一つである。そうしなければ権謀解釈上の整合性がとれないし、それこそがまさに立憲主義を貫き通す護憲派の立場ではないか』との疑問も雲散霧消(うんさんむしょう)するものと考えます。
視点を変えれば、すべて生きとし生けるものは、(天から与えられた性能として)その生存と生活と活動のために必要とする利器が与えられています。たとえば小さな虫が猛毒を持って天敵を倒したり、あるいは水中にいる亀や貝が固い甲をもって柔らかい身を防御したり、あるいは山や平原に棲(す)む虎やライオンが鋭い牙や爪をもって護(まも)りかつ攻撃したり、はたまた(鋭い爪や牙こそないが)その逃げ足の速さをもって身を護る手段としている動物など枚挙に暇(いとま)がありません。
然(しか)らば、万物の霊長たる人間が組織する国家の場合、右のごとき天与の言わば「護国護身の法」はいかに解されるのかと言えば、まさにそれが「軍隊」であり、その端的な例が彼の永世中立国たるスイスの国防軍であることは論を俟(ま)ちません。
つまり、国家が「軍隊」を保有して一朝有事に備えることは「戦争放棄」の憲法があろうがなかろうが、その成立過程にどのような経緯があろうがなかろうが全く関係ないことであり、まさに国家固有の防衛本能であり権利だということです。言い換えれば、国民の生命と財産を守ることは国家としては最低限やるべき責務だということです。
孫子が『兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。』〈第一篇 計〉と説く所以(ゆえん)です。因みに、ここでいう戦争が、言わば個別的自衛権に基づく自己保全のための自国防衛戦争であることはもとより論を俟(ま)ちません。
もとより、軍隊を持つことと、その軍隊を用いて近隣諸国に勢威を振い、弱者を蹂躙(じゅうりん)し、あるいは多民族を迫害・搾取するなどして、ただ自国の利権を拡大することとはおのずから別であることは論を俟(ま)ちません。
とは言え、残念ながら、古来、軍隊がそのようなやり方で用いられて来たことは歴史の示すところですが、それでもなお、少なくとも国家である以上、「護国護身の法」たる軍隊を持つことは当然の権利であること、そして、それをどのように用いるかは、それこそまさに「政治」の問題であると言わざるを得ません。
たとえば、交通戦争と言われるほど交通事故が多発し、事故死が多いからといって、諸悪の根源は「車」にあるというわけではなく、あくまでもそれは、車を運用する「人」の問題であるということです。『兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。』〈第一篇 計〉とはまさにその意です。
然(しか)らば、その「護国護身の法」たる軍隊を持つことと、戦争の放棄、軍備および交戦権を否認した憲法九条との関係はいかに解されるのか、ということになります。
……続きは、【孫子 一問一答】シリーズ 第六回でご覧いただければ幸甚です。
※この【孫子 一問一答】シリーズは、『孫子兵法独習用テキスト』として御好評を頂いております【孫子正解】シリーズ(第一回~十回まで既刊)と表裏一体の関係にあり、言わばその入門篇的なものです。併せてお読み頂ければ幸甚です。
※お知らせ
孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。
※併設 拓心観道場「古伝空手・琉球古武術」のご案内
孫子を学ぶのになぜ古伝空手・琉球古武術なのか、と不思議に思われるかも知れません。だが、実は、極めて密接な関係にあります。例えば、彼のクラウゼヴィッツは、「マクロの現象たる戦争を、言わば個人の決闘的なミクロの戦いへ置き換えることのできる大局的観察能力・簡潔な思考方法こそが、用兵の核心をなすものである」と論じています。則ち、いわゆる剣術の大なるものが戦争であり、勝つための言わば道具たる剣術・戦争を用いる方法が兵法であるということです。
とりわけ、スポーツの場合は、まずルールがあり、それをジャッジする審判がいます。つまり、スポーツの本質は、娯楽・見世物(ショー)ですから、おのずから力比べのための条件を同じくし、その上で勝負を争うという形になります。つまりは力比べが主であり、詭道はあくまでも従となります。そうしなければ娯楽・見世物にならず興行が成り立たないからです。
これに対して、武術の場合は、ルールもなければ審判もいない、しかも二つとない自己の命を懸けての真剣勝負であり、ルールなき騙し合いというのがその本質であります。つまるところ、手段は選ばない、どんな手を使ってでも「勝つ」ことが第一義となります。おのずから相手と正面切っての力比べは禁じ手となり、必ず、まず詭道、則ち武略・計略・調略をもってすることが常道となります(まさにそのゆえに孫子が強調するがごとく情報収集が必須の課題となるのです)。
つまり孫子を学ぶには武術を学ぶに如(し)くはなしであり、かつ古伝空手・琉球古武術は、そもそも孫子兵法に由来する中国武術を源流とするものゆえに、孫子や脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶには最適の方法なのです。
古伝空手・琉球古武術は、日本で一般的な、いわゆる力比べ的なスポーツ空手とは似て非なる琉球古伝の真正の「武術」ゆえに誰でも年齢の如何(いかん)を問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものであります。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。
- 2017年01月21日
- 28:日本人のルーツ『倭人はどこから来たのか』の出版のお知らせ
- 2016年01月02日
- 27:【孫子 一問一答】シリーズ 第六回の「立ち読み」のご案内
- 2015年08月13日
- 26:孫子の曰う『拙速』と、いわゆる「拙速」の典型例たる「戦争法案」との関係
- 2015年06月16日
- 25:【孫子正解】シリーズ 第十回の「立ち読み」のご案内
- 2015年06月01日
- 24:【孫子 一問一答】シリーズ 第五回の「立ち読み」のご案内
- 2017年05月23日
- ※「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」通学ゼミ講座 受講生募集
- 2015年01月07日
- 22:【孫子 一問一答】シリーズ 第四回の「立ち読み」のご案内
- 2014年09月29日
- 21:【孫子 一問一答】シリーズ 第三回の「立ち読み」のご案内
- 2014年07月23日
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- 2014年06月16日
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- 2014年03月14日
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